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編集部から

 

洲本に伝わるしばえもん狸の物語を、はじめてのどなたにもわかりやすく知っていただけるよう、2000年に地元の書店「成錦堂」さんを中心とする有志によって制作・出版された「絵本 しばえもん」をまるごと掲載させていただきました。絵本は現在廃版になっており貴重な復刻でもあります。

 

 野口早苗さんによるあとがきにある通り、この絵本ではしばえもんは命からがら逃げ帰りますが、もとのお話では道頓堀・中座の入り口で犬に見つかって噛み殺されてしまいます。絵本ではそれは可哀想だということで生きて帰ってくる結びとなったようなのですが、実はオリジナルではお話がまだ続いてゆきます。この後日譚がまたおもしろいので以下に簡単にご紹介させていただきます。

 

 劇場の入り口で狸が殺された後、中座ではお客の入りが激減してしまいます。おかしいな、困ったなと、数日前に入り口で狸が殺されたことも耳にしていた役者の片岡仁左衛門がある夜床についていると、夢枕にお武家姿のしばえもん狸が立ちます。その祟りか、哀れに思った仁左衛門はその霊をなぐさめるため、劇場の舞台下、奈落という地下に祠を建立し祀ったところ、客の入りが戻るどころか以前よりもいっそう人気が出て、片岡仁左衛門の名は代々襲名されるほどのものと相成ったということです。

 その死によって神様となったしばえもん狸は、その後も中座の役者や関係者の間で芸能者の守護神として大切に信仰されてきたそうです。著名な方では中座の系統である松竹の藤山寛美さんも幼いころからオタヌキサマに手を合わせ、頃を見ては洲本にも足を運ばれていました。三熊山山頂の祠には、寛美さんの寄贈したという狸の像を今も見ることができます。中座の閉館にともない、しばえもんの魂は分霊され、生國魂神社と洲本八幡神社に眠っています。

 

 物語の世界と現実がやがて地続きとなってゆくダイナミズム。島人の都会への憧憬と畏れ、またかつての洲本と大阪浪花のネットワーク(関係性)の記憶がゆたかに内蔵されたこの物語は「日本三名狸物語のひとつ」などという触れ書きを持ち出すまでもなく、洲本のほこる文化財のひとつだといえるかと思います。

 

編集部

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